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『風立ちぬ』で宮崎駿が考えた、もうひとつのエンディング

 タイトルが駄目すぎて、ほとんどの人は手にも取らないんじゃないかなー、本屋からひっそりと消えていくんじゃないかなー、というコレ。

風に吹かれて

風に吹かれて


 めちゃくちゃ面白かった。ロッキング・オン渋谷陽一ジブリ鈴木敏夫にインタビューして、ジブリ作品の秘密を暴くという本。
 聞き手である渋谷陽一の興味感心は、「宮崎駿高畑勲という二人のめんどくさい天才を手なづけて作品を生み出す剛腕鈴木Pは、いかにして生まれたのか」ということに集中するわけなんだけど、鈴木敏夫を掘っていくことで、むしろ高畑勲の凄さが浮き彫りになっている。往年の『アニメージュ』や高畑勲研究をしている同人誌を思い返しても、他者の視点から、これほど高畑勲の才能にフィーチャーした書籍は今までないんじゃないか。『風立ちぬ』の上映前に付いている『かぐや姫の物語』特報の映像・演出の凄まじさで、高畑勲に再注目している人には、是非読んで欲しい一冊。高畑勲ヤバイ!


宮崎駿の最初の案では、主人公・二郎も死んでいた

 本書は現在公開中の『風立ちぬ』にも多く触れていて、これ、宮崎駿が読んだら怒るんじゃないか、っていう制作裏エピソードもふんだんに載っている。そのひとつが「宮崎駿が最初に考えた『風立ちぬ』のラストは違った」というもの。鈴木敏夫は公開された今も、エンディングを変えたことに悩んでいる。

鈴木「宮さんの考えた『風立ちぬ』の最後って違っていたんですよ。三人とも死んでいるんです。それで最後に『生きて』っていうでしょう。あれ、最初は『来て』だったんです。これ、悩んだんですよ。つまりカプローニと二郎は死んでいて煉獄にいるんですよ。そうすると、その『来て』で行こうとする。そのときにカプローニが、『おいしいワインがあるんだ。それを飲んでから行け』って。そういうラストだったんですよ。それを今のかたちに変えるんですね。さて、どっちがよかったんですかね」

鈴木「やっぱり僕は、宮さんがね、『来て』っていってた菜穂子の言葉に『い』をつけたっていうのはね、びっくりした。うん。だって、あの初夜の晩に『きて』っていうでしょう。そう、おんなじことをやったわけでしょ、当初のやつは。ところが『い』をつけることによって、あそことつながらなくなる」

鈴木「だけど三人とも死んでいて、それで、『来て』といって、そっちのほうへ行く前に、ワインを飲んでおこうかっていうラストをもしやっていたら、それ、誰も描いたことがないもので。日本人の死生観と違うんですよ。そこが面白い。要するに、これは高畑さんなんかもしきりにいっているんだけど、日本人の死生観って西洋と違って、いつもそばにいて死んだ人が見守ってくれているわけでしょ。ということは、『来て』じゃない。それが日本人だった。(〜略〜)だから、最初の宮さんが考えたラストをやっていたら、どう思われたんだろうかと」


 個人的な意見としては、宮崎駿のこの最初の案のほうが、『風立ちぬ』を見ていて腑に落ちただろうなぁと思う。宮崎駿作品を見た、という気持ちにもっと浸れたと思う。


高畑勲がヤバイ!

 そんなこんなで、山のように裏話が満載の『風に吹かれて』(やっぱり、このタイトル、アカン!)、めっちゃ面白いっす。鈴木敏夫の生い立ちから始まって、宮崎・高畑と出会うまで、そして『ナウシカ』でトップクラフトをぶっ潰しスタジオジブリができ、そっからの30年間。たとえば、『魔女の宅急便』はクロネコヤマトからの企画で始まった、そこからどう作品づくりをしたか、みたいな珠玉のエピソードが、惜しげも無く披露される。

 読後、『かぐや姫の物語』への期待が上がりまくった。ちなみに、高畑勲パナイ!ってなれる本はたくさん出ている。『かぐや姫』はやく見たい!


映画を作りながら考えたこと

映画を作りながら考えたこと


映画を作りながら考えたこと〈2〉1991‐1999

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