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夢枕獏版「大菩薩峠」~『ヤマンタカ 大菩薩峠血風録』テーマは2つだった

鈴木敏夫大菩薩峠ってね、大好きなんですけどね」
夢枕獏「ええ」
鈴木「ああいう主人公ってどうなんですかね」
夢枕「あの、冷たいニヒルな。僕は割と好きで」
鈴木「もう一度ね、ああいうものが、待望論ってあるんじゃないですかね」
夢枕「あーーーーーーーーーー。なるほどね」
鈴木「ひどい男でしょう」
夢枕「ひどい男で」
鈴木「極悪非道でしょう」
夢枕「色悪。女が惚れちゃうような、でも極悪非道」
鈴木「そう。もう一回、誰か書かないかな。堀田善衛っていう作家がね、深沢七郎にね、机竜之助を書きたまえ、てやっているんです」
夢枕「へーー」
鈴木「あれ以来、出てない」
夢枕「途中で終わっていますよね」
鈴木「大菩薩峠って、中断なんですよね。17巻ありますけどね、ぼくは2回も読んでいて好きなんですけれど。何もこの人に気持ちを寄せることが、共感ができない、そんなヒドイ主人公だけれど。なぜか心惹かれますよね。今の時代、そういうものを見てみたい。読んでみたい」
夢枕「ぼくは惹かれますね。途中で愛情が湧くと書けなくなるんですよね。極悪非道を持続できなくなるんですよね、自分で書いていて。なんか可愛げを出してしまう」
鈴木「冒頭、巡礼のおとっつぁんの方、斬り殺されるでしょう。なんのためかといったら、刀の切れ味を試すため。酷いですよね」
夢枕「全部読んだんですか」
鈴木「読みました。ぼくは2回読んだんです」
夢枕「素晴らしい。死んでも忘れて、死んだやつがまた出てきたりする」
鈴木「これはね、堀田善衛という人が指摘したんですけれどね。音無しの構え、受け身の拳法なんですよね。自分からいかないんですよ。来たら、やる。つまり、座頭市なんかもそのマネなんですよ」
夢枕「あーーー」
鈴木「そうするとね、堀田善衛さんが言うには、世界の冒険活劇ものを読んで、ヒーローで受け身のやつって日本だけらしいんです。外国はみな、自分からいくらしいんですよ。・・・新境地として」
夢枕「そういえば、外国の冒険ものは行くものが多いですよね。日本は向こうから来る」
鈴木「巻き込まれるんですよね。だから宮崎駿ラピュタを作っても、あの少年パズーは巻き込まれるじゃないですか、事件に。主体的じゃないんですよね。ぼくは個人的にそういうチャンバラが好きだから、誰か書かないかなって。ずっと思っているんです」
夢枕「チャンバラ、最近、書くんですよ・・・(中略)」
鈴木「最初の話に戻るとね、中里介山もこう書いているんですよ。音無しの構え、もうこれは筆舌に尽くせない」
夢枕「笑!」
鈴木「だからこれ、映画にするときに大変だったらしいんですよ。どういう構えなのか、分からないんだもん」
夢枕「なるほどね」
鈴木「とにかくみんなが吸い寄せられちゃうんだから」
鈴木敏夫のジブリ汗まみれ - TOKYO FM 80.0 - 鈴木敏夫より

4年近く前に夢枕獏ジブリを訪れ、鈴木Pに焚き付けられて誕生したのが『ヤマンタカ 大菩薩峠血風録』である。面白かった。夢枕さんが書きたかったテーマは2つ。

  1. 音無しの構えとは、一体どんな構えなのか?
  2. 机竜之助のニヒルさのゆえんはなんなのか?

それを小説の中で解明することに執念を燃やしている。
主人公として立てられたのは、土方歳三。原作『大菩薩峠』では、新撰組とも交流はあるが、それは机竜之助が江戸へ行ってからの話だったはずで、『ヤマンタカ』では最初から登場する。登場のさせ方が見事なので、すぐに引き込まれた。大菩薩峠で巡礼のジジイが机竜之助に斬り殺され、お松が残される、それを助けるのは七兵衛・・・というところは同じで、七兵衛が売って歩いている薬を作っているのが土方歳三の家。一方、土方歳三は同じ頃にとある辻斬りと出会う(のちに分かる宇津木文之丞)。お松は土方歳三のもとへ預けられ、次第に「机竜之助」「宇津木文之丞」「お浜」の物語に巻き込まれていく。お浜が犯されるエピソードは原作では机竜之助の世話をする与八によって、だったが、『ヤマンタカ』では丹波赤犬という盗賊の一味で、土方歳三の目の前で犯される。

ヤマンタカ 大菩薩峠血風録

ヤマンタカ 大菩薩峠血風録

音無しの構えについても、机竜之助のニヒルさについても、夢枕獏のアンサーは面白かった。さすが。